2026年夏から秋にかけて、各地で記録的な大雨が相次いでいる。8月の千葉では1時間115mm、9月8日の名古屋では1時間104.5mmという猛烈な雨を観測し、石川などでも河川の氾濫や浸水被害が発生した。
こうした水害を見ると、被害の大きさは雨量だけで決まるわけではない。大量の雨に、水が集まりやすい地形と、その水を河川や下水道へ逃がす能力が重なることで街は水没する。
水害リスクを考えるときも、川からの距離や海抜だけを見るより、自宅周辺に降った水や周囲から流れてきた水がどこへ集まり、どこへ流れていくのかを見る方が実態をつかみやすい。
2026年の洪水で見えた共通点
8月13日から14日にかけての千葉県では線状降水帯が発生し、千葉で1時間115mmを観測した。暖かく湿った空気が流れ込む中で積乱雲が繰り返し発達し、道路や住宅地などで浸水が発生した。
8月下旬の石川でも記録的な大雨となり、複数の河川で氾濫や堤防の決壊が発生した。
9月8日の名古屋では線状降水帯が発生し、1時間104.5mmを観測した。市内では道路の冠水が相次ぎ、香流川周辺には警戒レベル5・緊急安全確保が発令され、庄内川にも氾濫特別警報が発表された。
気象条件や被害の形は地域によって異なる。それでも2026年の事例を並べると、短時間に大量の水が供給されたとき、河川、下水道、低地など街のどこかが処理の限界を迎えるという共通した構図が見えてくる。
こうした猛烈な雨は長期的にも増えている。気象庁によると、全国で1時間80mm以上の雨が発生する頻度は、最近10年間では1976~1985年の約1.8倍となっている。
個々の豪雨にはそれぞれの気象条件があるが、極端な短時間降雨そのものが以前より起こりやすくなっていることは、水害を考えるうえで無視できない変化である。
1時間100mmの雨が街に降るとどうなるか
「1時間100mm」と聞いても、実際にどれほどの水なのかは分かりにくい。
雨量1mmは、1平方メートルに1リットルの水が降る量である。1時間100mmなら、100平方メートルの土地や屋根には1時間で約1万リットル、重さにして約10トンの水が降る計算になる。
住宅一軒程度の範囲だけでもこれだけの量になる。街全体では道路や屋根に降った大量の水が、ほぼ同時に側溝や下水道へ流れ込む。
そこで排水能力を上回ると、川が堤防を越えていなくても低い道路や住宅地へ水があふれる。これが内水氾濫である。雨が長く続けば中小河川や大きな河川の水位も上昇し、河川から水があふれる洪水の危険も高まる。
千葉では低い道路や住宅地などで浸水が発生した。名古屋では道路冠水が広がるのと同じ時間帯に複数の河川でも水位が上がり、内水氾濫と河川の増水を同時に警戒する状況になった。
1時間100mm級の雨では「川の水位が上がってから危険になる」と考えると対応が遅れる可能性がある。降った場所そのものが排水しきれず、道路から先に水がたまり始めることがあるからだ。
水没しやすい土地の特徴
水害リスクを見るときは、土地を水の通り道として考えると分かりやすい。
国土地理院は洪水や内水氾濫の影響を受けやすい地形として、氾濫平野、後背低地、旧河道、谷底平野、干拓地などを示している。
平らな低地には水が集まりやすい
川の下流に広がる平らな土地の多くは、長い時間をかけて洪水が運んだ土砂によって形成されてきた。
その中でも後背低地など周囲より低い場所では、河川から流れ込んだ水に加え、街に降った雨が集まることで浸水することがある。勾配が小さく、水が抜けるまで時間がかかりやすい場所もある。
住宅や道路が整備された現在の街並みだけから、こうした土地の成り立ちを読み取るのは難しい。ハザードマップや地形分類図を見る意味がここにある。
昔の川の跡は現在も低いことがある
旧河道はかつて川が流れていた場所である。
川が埋められて住宅地や道路になっていても、周囲より低い地形が残っている場合がある。大雨になるとそこへ水が集まりやすく、現在の街並みからは見えなくなった昔の川筋が浸水リスクとして残る。
現在の住所や景観だけでは気付きにくい、水害リスクの一つである。
丘陵地では谷と中小河川を見る
標高が比較的高い地域にも水が集まる場所はある。
丘陵地へ降った雨は斜面を流れて谷へ向かう。谷底に道路や住宅地、中小河川があれば、周囲から集まった水によって短時間で水位が上がることがある。
名古屋は大きく見ると東部が高く、西部に低地が広がっている。9月8日には東部を流れる香流川周辺でも警戒レベル5・緊急安全確保が発令された。
市や区全体の標高を見るだけでなく、自宅が谷の中にあるのか、周囲の雨水がどちらへ流れる地形なのかまで見る必要がある。
都市では小さな窪地にも水が集中する
街の中では数十cmから数m程度の高低差も影響する。
アンダーパス、地下駐車場へのスロープ、地下街の入口、低くなった交差点などには周囲の道路から水が集まる。道路や建物で地面が覆われた都市では雨が地中へ染み込む量も限られ、多くの水が短時間に排水設備へ向かう。
こうした小さな地形はハザードマップでも細部まで表現できないことがある。普段通っている道路を「大雨が降ったら水はどちらへ流れるか」という視点で見ておくと、危険な場所を把握しやすい。
名古屋の豪雨と都市の排水能力
9月8日の名古屋では1時間104.5mmという猛烈な雨が観測された。
この数字が興味深いのは、名古屋市が進めている治水対策との関係である。
名古屋市の総合排水計画では、市が管理する河川や下水道について、1時間63mmの雨で浸水被害をおおむね解消し、約100mmの雨では床上浸水をおおむね解消することを目標としている。現在も長期的に施設整備が進められている途中だ。
9月8日に観測された雨は、都市が大雨対策として想定している100mm級の水準だった。
ここで注意したいのは「100mmに対応する計画なら、100mmまでは街が冠水しない」という意味ではないことである。
約100mmという目標は床上浸水をおおむね解消するためのもので、道路冠水を完全になくす基準ではない。雨が短時間に狭い範囲へ集中すれば、一時的・局所的に排水能力を上回り、道路などへ水がたまることもある。整備そのものも30年程度をかけて進められている途中である。
今回の名古屋は、都市の治水施設を強化していても、100mm級の雨が短時間に降れば各地で浸水リスクが高まることを改めて示した。
雨をすべて下水管や河川で速やかに処理するには限界がある。河川や下水道の整備に加え、雨水を一時的に貯める施設、建物側の浸水対策、土地利用、早めの避難を組み合わせて被害を減らしていく必要がある。
水害への備えは自宅の場所を調べることから
水害対策というと、防災用品や非常食を思い浮かべやすい。
水害に限ればその前に一度やっておきたいことがある。自宅周辺を「洪水」「内水氾濫」「土地の成り立ち」の3方向から見ることである。
まず国土交通省・国土地理院のハザードマップポータルサイトで、自宅周辺の洪水ハザードマップを確認する。河川が氾濫した場合に、どこまで水が広がり、どの程度の浸水が想定されているかを見ることができる。
次に同サイトの「わがまちハザードマップ」などから自治体が公開している内水ハザードマップ(雨水出水ハザードマップ)を確認する。こちらは川から水があふれる場合ではなく、市街地に降った雨を下水道などで排水しきれなくなった場合の浸水リスクを見るための地図である。
最後に国土地理院の地理院地図で地形分類(自然地形)を確認する。「土地の成り立ち・土地利用」から表示でき、旧河道、氾濫平野、後背低地、谷底平野など、自宅がどのような地形の上にあるのかを調べられる。
3つを見ると、それぞれ別の角度から自宅の水害リスクが分かる。
| 確認するもの | 分かること |
|---|---|
| 洪水ハザードマップ | 河川が氾濫した場合の浸水リスク |
| 内水ハザードマップ | 街に降った雨を排水できない場合の浸水リスク |
| 地形分類図 | 水が集まりやすい土地なのか、その背景 |
特に見ておきたいのは、ハザードマップで自宅に色が付いているかだけではない。
自宅、駐車場、最寄り駅までの道、通勤・通学路、近くの川や水路を一続きで見る。
自宅は浸水想定区域の外でも、駅へ向かう途中にアンダーパスや低い道路があれば、大雨時に移動できなくなることがある。マンションの住戸が高層階でも、地下駐車場や1階の電気設備が浸水すれば生活への影響は大きい。
低い場所に車を置いているなら、大雨になる前に移せる場所を考えておく。戸建てやマンション低層階で浸水の可能性があるなら、止水板や水のうを準備し、家財や電化製品を高い位置へ移せるようにしておくと被害を減らしやすい。
避難も道路が冠水する前に判断する方が安全である。すでに周囲が浸水して移動する方が危険な場合には、近くの頑丈な建物や自宅の上階など、少しでも浸水しにくい場所で直ちに安全を確保する。
2026年の千葉、石川、名古屋では、雨の降り方も土地も異なっていた。
自分の住む場所について一度確認するなら、洪水ハザードマップ、内水ハザードマップ、地形分類図の3つを見るところから始めたい。
水害リスクが分かれば、次に考えることも具体的になる。どの道を避けるのか、車をどこへ移すのか、いつ避難するのか、自宅ならどこまで上がればよいのか。
大雨が降ってから考えることを、平常時に少し減らしておく。それが最も実用的な水害への備えである。
参考資料
