「最近、スマホを少し離したほうが見やすい」「そろそろ更年期かな」「前より髪が薄くなってきた気がする」。年齢を重ねると、こんな「そろそろ○○かな」が少しずつ増えてくる。
では人間の体には「何歳ごろに何が変わる」という年表のようなものがあるのだろうか。
調べてみると、40歳や50歳を境に体が一斉に老化するわけではない。女性の骨密度は20歳ごろにピークを迎え、骨格筋量の低下は20代後半から30代にかけて始まる。聴力にも30代から変化が現れ、老眼を自覚する人が増えるのは40歳前後。そして日本人女性が閉経する平均年齢は50歳前後だ。
つまり、人間には一つの「老化開始年齢」があるわけではない。目、耳、髪、骨、筋肉、ホルモン。それぞれが違う時間軸で変化している。
しかも、変化が始まる時期と本人がそれに気づく時期は必ずしも同じではない。その時間差を大まかに図にすると、次のようになる。

※図は変化のおおまかな時期を示したもの。年齢には個人差があり、その年齢になれば必ず変化が起こるという意味ではない。
20〜39歳 体の変化は自覚するより先に始まっている
20歳前後 女性の骨密度がピークを迎える
20歳と「老化」は、かなり離れた言葉に思える。しかし体のすべてが40歳や50歳まで成長を続けるわけではない。
厚生労働省の健康情報によると、女性の骨密度は20歳ごろにピークを迎え、その後は徐々に減少する。とはいえ20歳を過ぎた途端に骨が急に弱くなるわけではなく、閉経を迎える50歳ごろになると減少が加速する。
骨だけを長い時間軸で見ると、20歳前後ですでに一つの頂点を通過していることになる。そしてこの骨の話は約30年後、50歳前後でもう一度登場する。
20代後半〜30代 筋肉量は少しずつ減少方向へ
次に動き始めるのが筋肉だ。厚生労働省の健康情報では、骨格筋量の低下は25〜30歳ごろから始まり、生涯を通して進行すると説明されている。
ただし「25歳になったら筋肉が減る」と一本の線を引けるわけではない。活動量や運動習慣、栄養、病気などによる差も大きいため、20代後半から30代にかけて徐々に減少方向へ向かうと考えるほうが分かりやすい。
若いうちは変化が進んでも日常生活に支障が出るとは限らない。そのため「筋肉が衰えた」と本人が感じるより、かなり前から変化が始まっていることになる。
30代 高い音から聴力の変化が始まる
30代になると耳にも静かな変化が始まる。国立長寿医療研究センターによると、加齢に伴う耳の組織の変化によって聴力が低下し始めるのは30代からとされている。
加齢による聴力低下は高い音から進むため、最初から普段の会話が聞き取れなくなるわけではない。日常生活ではほとんど困らず、自分では気づかないことも多い。
一方、軽度以上の難聴が大きく増えてくるのは65歳以降だ。30代から始まった変化が生活上の問題として見えてくるまで、数十年かかる場合もある。これは「変化の開始」と「自覚」の時間差がよく分かる例だ。
30代後半 髪の変化が目立つ人も増える
30代になると、髪の変化を意識する人も増えてくる。ただし、ここは骨や聴力とは少し事情が違う。
男性型脱毛症(AGA)は単純な加齢現象ではなく、遺伝や男性ホルモンが関係する。日本皮膚科学会のガイドラインでは、日本人男性では20代後半から30代にかけて目立つようになり、発症頻度も年齢とともに高くなるとされている。
一方、薄毛は男性だけに起こるものではない。女性にも女性型脱毛症などがあり、現れ方や背景は男性型脱毛症と同じではない。そのため「何歳になれば髪が薄くなる」と全員を同じ年表に当てはめることはできず、髪は特に個人差の大きな変化と考えたほうがよい。
40〜59歳 「そろそろ○○かな」が増えてくる
40〜45歳 目の変化が「老眼」として見えてくる
40歳前後になると、それまで本人には見えにくかった変化の一部がはっきりしてくる。代表的なのが老眼だ。
目には遠くから近くまでピントを合わせる「調節力」がある。この力は若いころほど大きく、加齢とともに徐々に低下する。日本眼科学会では40代くらいから、近くを見る作業で目が疲れるなどの不快感を感じ始めるとしている。
「スマホを少し離したほうが見やすい」「小さな文字を見ると疲れる」。そんな経験から初めて気づく人もいるだろう。
重要なのは、40歳になった日に目が突然変わるわけではないことだ。調節力そのものは以前から低下しているが、若いうちは近くを見るために必要な力に余裕がある。低下が続いてその余裕が小さくなると、初めて「見えにくい」「疲れる」という形で本人にも分かるようになる。
筋肉では20代後半から、耳では30代から変化が始まっている。40代は老化のスタート地点というより、それまで見えにくかった変化を一つずつ自覚し始める時期と考えると分かりやすい。
45〜55歳 女性では更年期と骨の変化が重なる
40代後半から50代前半には、女性では更年期という比較的大きな節目が重なる。日本産科婦人科学会では、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間を「更年期」と呼んでいる。
日本人女性が閉経する平均年齢は50歳前後なので、平均値を中心に考えれば45〜55歳ごろが更年期にあたる。ただし閉経の時期にはかなり個人差があり、40代前半で迎える人もいれば50代後半になる人もいる。症状についても、ほとんど気にならない人から日常生活に影響する人までさまざまだ。
そして閉経は生殖機能だけの節目ではない。女性では閉経に伴うホルモンの変化によって骨密度の減少が加速する。
ここで20歳前後に登場した骨の話が再びつながる。20歳ごろにピークを迎えた骨密度は、その後長い時間をかけて変化し、約30年後には閉経という別の体の変化と重なる。
人体の年表は「20代は骨、30代は耳、40代は目」とテーマが単純に交代するわけではない。若いころから続いていた変化が、数十年後に別の変化と結びつくこともある。
60歳以降 長く続いた変化が生活にも現れやすくなる
60〜65歳 白内障がかなり一般的になる
60代になると、目には老眼とは別の加齢変化も増えてくる。白内障だ。
白内障は目の中にある水晶体が濁る病気で、主な原因は加齢である。日本眼科学会によると60代で約70%、70代で90%、80代ではほとんどの人に白内障がみられる。
数字だけを見ると驚くが、白内障があることと生活に支障が出ることは同じではない。軽度であれば症状がない場合もあり、通常は年月をかけてゆっくり進行する。
ここでも「体の中で変化していること」と「本人が困ること」には時間差がある。若いころから見てきたのと同じ構造が60代にも現れる。
65〜70歳 30代から続いた耳の変化が見えやすくなる
30代で登場した耳が、ここで再び大きな意味を持ってくる。
国立長寿医療研究センターによると、軽度以上の難聴がある人の割合は65歳以上で急増する。同センターが紹介するNILS-LSAのデータでは、60代後半で男性44%、女性28%、70代前半では男性51%、女性42%となっている。
聴力そのものの変化はかなり前から始まっているのに、日常生活で意識するほどの難聴が増えてくるのは数十年後だ。聞き返しが増えたりテレビの音量が大きくなったりして、本人より家族が先に気づくこともある。
「変化の開始」と「生活への影響」は、これほど離れることがある。
70〜75歳 目・耳・筋肉など複数の変化が重なる
70代になると、別々の時期から始まった変化が同時に見えやすくなる。白内障はかなり一般的になり、難聴の割合も高くなる。さらに若いころから徐々に減少してきた筋肉も、筋力や身体機能との関係がより重要になってくる。
目は40代から老眼として意識され、耳は30代から静かに変化し、筋肉も20代後半から30代にかけて減少方向へ向かってきた。それぞれ始まった時期は違っても、高齢期になると生活の中で重なって見えるようになる。
もちろん全員に同じ変化が同じ強さで現れるわけではない。むしろ年齢が上がるほど、同じ年齢の人どうしでも体の状態には大きな差が出てくる。
体の時計はどこまで遅らせられる?
ここまでの年表は、どの年代でどんな変化が起こりやすいかを見る目安にはなる。ただし、その後の進み方まで決めるものではない。加齢そのものは変えられなくても、生活習慣や環境によって進み方や影響に差が生まれる部分もある。
| 対象 | 遅らせる・改善する余地 | できること | 変えにくい部分 |
|---|---|---|---|
| 筋肉 | 大きい | 筋力トレーニング、日常の身体活動、適切な栄養 | 加齢に伴う筋肉量低下そのものは起こる |
| 骨 | ある | 運動、十分な栄養、禁煙、過度の飲酒を避ける | 加齢や閉経に伴う変化そのものは避けられない |
| 聴力 | 一部ある | 大音量や長時間の騒音を避ける、必要に応じて耳を保護する | 加齢性難聴を完全に防ぐ方法はない |
| 白内障 | 一部ある | 紫外線曝露を減らす、禁煙、糖尿病などの適切な管理 | 加齢が大きな要因になる |
| 老眼 | 現状では小さい | 眼鏡やコンタクトレンズなどで見え方を補う | 調節力の加齢低下を確実に止める方法は確立していない |
| 毛髪 | AGA治療による余地がある | 適切な診断を受け、必要に応じて治療する | 生活習慣だけで予防できるものではない |
こうして見ると、年齢は体の変化を考える大切な目安になる一方で、その先の状態まで決める数字ではない。変えにくい変化もあれば、進み方を遅らせたり失われた機能の一部を取り戻したりできるものもある。
20歳前後でピークを迎えるものがあり、20代後半から少しずつ減り始めるものがある。30代から静かに変わるものもあれば、40歳前後になって初めて本人が気づくものもある。50歳前後には比較的大きな節目があり、60代や70代になってから生活への影響が見えてくるものもある。
「老化は何歳から始まるのか」という問いには、一つの年齢では答えられない。人間はある日突然老いるわけではなく、それぞれ違う時期から始まった体の変化に、人生の途中で一つずつ気づいていく。
「そろそろ老眼かな」と思った日も、目がその日から変わり始めたわけではない。ずっと前から続いていた変化に、その日初めて気づいたのだろう。
そしてもう一つ、気になる問いが残る。体の時計を遅らせるだけでなく、すでに進んだ老化そのものを巻き戻すことはできるのだろうか。そこは今、老化研究が本気で挑んでいる領域である。
参考資料
- 厚生労働省 健康日本21アクション支援システム「骨密度」「サルコペニア」
- 国立長寿医療研究センター「補聴器は何歳から必要?」/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「難聴について」
- 日本眼科学会「老視(老眼)」「白内障」
- 日本産科婦人科学会「更年期障害」
- 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」
