YouTuberはなぜ「ということで」から始める?動画冒頭の言葉の謎

YouTubeを見ていると、「はい、ということで今回は……」「ということで、今日は○○に来ています」といった始まり方をよく耳にする。

聞き慣れているので気にならないが、よく考えると少し不思議だ。「ということで」は、その前にある話を受けて使う言葉のはずである。動画が始まったばかりなら、その前には何もない。

YouTuberの「ということで」は、動画では「さあ、始めます」に近い開始の合図として使われている。 実際、この使われ方は言語学でも研究対象になっており、動画の冒頭では前の内容を受ける接続表現というより、動画が始まったことを視聴者に伝えたり、注意を向けたりする働きがあると分析されている。

ただ、撮影する側から見ると、本当に「その前には何もない」のだろうか。

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本来の「ということで」

普通の使い方なら、前後の関係ははっきりしている。

「雨が降ってきました。ということで、今日は室内で撮影します」

「予定していた店が休みでした。ということで、別の店に向かいます」

前に事情があり、それを受けて次の話へ進む。「ということで」を「そういう事情なので」と置き換えても、おおむね意味が通る。

ところが動画では、「はい、ということで今日は新しいiPhoneを紹介します」と、前提となる話がないまま始まる。

文章だけ取り出せば唐突なのに、動画で聞くとほとんど違和感がない。

YouTuberの「ということで」は開始の合図

「ということで」は、動画の途中でもよく使われる。

空港で手続きを終えて「ということで、出国しました」、目的地に着いて「ということで、台湾に到着です」と言えば、場面が次へ進んだことが分かる。最後の「ということで、今回はここまでです」も同じで、動画の締めへ移る合図になる。

動画投稿サイトの「ということで」を調べた研究でも、冒頭では動画の開始、途中では話題や場面の転換、終盤では締めへの移行といった使われ方が確認されている。

動画には編集による「切れ目」がある。場所が変わる、時間が飛ぶ、話題が変わる。そこで「ということで」と言えば、視聴者は細かな説明がなくても次の場面に入ったことを理解できる。

その働きが動画の最初にも使われていると考えれば分かりやすい。

「はい、ということで今日は……」

この「ということで」は前の文章を受けるというより、何も映っていなかった時間から本編へ切り替える言葉になっている。

撮影者だけが持つ動画の前段階

もう一つ考えてみたいのが、視聴者と撮影者では「動画の始まり」が違うことである。

視聴者にとっては、再生ボタンを押して映像が始まった瞬間がスタートだ。

撮影する側には、その前がある。

今日は何を撮るか考える。必要なら情報を調べ、撮影場所を決め、機材を準備する。カメラをセットし、構成を頭の中で確認して、録画ボタンを押す。

そこで「はい、ということで今日は……」と話し始める。

本人の感覚では、

「テーマも決まった。準備もできた。ということで、撮ろう」

という時間の流れがすでにあってもおかしくない。

もちろん、YouTuberがみなこの心理で「ということで」を使っていると確認されているわけではない。長年の口癖かもしれないし、ほかの動画を見て自然に身についた言い回しかもしれない。

それでも、視聴者には見えていない前段階を、撮影者だけは持っているという違いは、この言葉の自然さを考えるうえで面白い。

視聴者から見れば「何を受けているの?」となる。撮影者からすれば、それまでの準備から本番へ移るところで出てくる言葉なのかもしれない。

YouTubeに定着した話し始めの型

「ということで」がよく使われる理由は、もっと単純なところにもありそうだ。実際に声に出して比べると分かりやすい。

「今日は新しいiPhoneを紹介します」

これでも内容は伝わる。

「はい、ということで今日は新しいiPhoneを紹介します」

こちらは「はい、ということで」の分だけ助走がある。カメラを向けられた状態でも話し始めやすく、見る側にも本題へ入るタイミングが伝わる。

YouTubeには「はいどうも」「今回はですね」「早速ですが」「やっていきたいと思います」など、情報だけを考えれば省ける言葉も多い。文章なら削るところでも、話し言葉ではテンポを作り、話し手と視聴者を会話の中へ入れる役割がある。

多くの動画で繰り返されれば、それ自体が「動画の話し方」として定着していく。これまでYouTubeを見てきた人が自分で動画を撮るとき、意識せず「はい、ということで」と始めても不思議ではない。

結局、動画冒頭の「ということで」に、視聴者から見える前の文章はない。

それでも自然に聞こえるのは、「ということで」が接続だけをする言葉から、動画の始まりや切り替わりを知らせる言葉としても使われるようになっているからだろう。

そして撮影者の側には、テーマを考え、準備し、いよいよカメラを回すまでの時間がある。

YouTuberの「ということで」がつないでいるのは、前の文章というより、撮影前の時間と、これから始まる本編なのかもしれない。

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