カルテルはなぜ禁止される?企業の利益と社会全体の損失

企業同士が話し合って商品の価格などを決める「カルテル」は、独占禁止法で禁止されています。

しかし、企業にとっては価格競争を避け、利益を確保しやすくなるというメリットもあります。それでも禁止されるのはなぜでしょうか。

カルテルが企業、消費者、そして社会全体にどのような影響を与えるのか。身近な例を使って考えてみます。

目次

カルテルが禁止される理由

カルテルが禁止されるのは、企業同士が価格や生産数量などを取り決めることで競争が弱まり、消費者が高い価格を負担するだけでなく、社会全体にも経済的な損失が生じるためです。

例えば、ある街に3軒のコーヒー店があるとします。

それぞれの店は、客を集めるために価格や味、サービスで競争しています。ところが、3店の経営者が集まり、「これからはコーヒーを全店350円で販売しよう」と決めたらどうなるでしょうか。

企業にとってのメリット

店側にとって、価格を取り決めることにはメリットがあります。

安売りによって客を奪い合う必要がなくなり、1杯当たりの利益を増やせます。値上げによって販売数が大きく減らなければ、店全体の利益も増えるでしょう。

利益を確保しやすくなれば、設備投資や従業員の待遇改善にお金を回す余裕も生まれます。

ただし、値上げによって客が減り、期待したほど利益が増えない場合もあります。また、カルテルが発覚すれば、課徴金や損害賠償、信用の低下などによって、参加企業自身が大きな損失を被ることもあります。

消費者にとってのデメリット

一方、消費者は安い店を選びにくくなります。

以前なら250円で買えたコーヒーが、どの店でも350円になってしまうかもしれません。価格が高くなれば、購入する回数を減らしたり、買うのを諦めたりする人も出てきます。

カルテルによって企業の利益が増えたとしても、その一部は消費者が余計に支払ったお金から生まれています。

日本では、こうした価格や生産数量などの取り決めによって競争を実質的に制限する行為は、独占禁止法の「不当な取引制限」として禁止されています。

カルテルが社会全体に生む損失

消費者から企業への利益の移転

企業が商品を100円値上げし、消費者がその商品を購入したとします。

消費者は100円多く支払いますが、企業は100円多く受け取ります。商品の生産費用などが変わらなければ、社会全体で見た利益の合計は、このお金の移動だけでは変わりません。

経済学では、消費者が商品に支払ってもよいと思う金額と実際の価格との差を「消費者余剰」、企業が販売によって得る収入と供給に必要な費用との差を「生産者余剰」と呼びます。

値上げによって消費者余剰の一部が生産者余剰へ移ることは、社会の中で利益の配分が変わった状態です。

取引の減少によって失われる利益

問題は値上げによって買い物を諦める人が出てくることです。

先ほどのコーヒー店で、簡単な数字を使って考えてみましょう。

ある店には、コーヒー1杯に最大400円を払ってもよいと思う客と、最大300円なら払ってもよいと思う客が1人ずついます。

コーヒー1杯を提供するための費用は200円とします。通常価格が250円なら2人とも購入しますが、カルテルによって350円になれば、購入するのは1人だけです。

項目通常価格:250円カルテル価格:350円
購入人数2人1人
店の利益(固定費を除く)100円150円
消費者余剰200円50円
社会全体の利益300円200円

※説明のための仮例。店の利益は売上から1杯200円の提供費用を引いた金額、消費者余剰は各客が支払ってもよいと思う金額と実際の価格との差額の合計。社会全体の利益は両者の合計としています。

この例では、カルテルによって店の利益は50円増えました。一方、消費者余剰は150円減り、社会全体の利益も100円減少しています。

なぜ100円が失われたのでしょうか。

300円までなら購入する客にとって、コーヒーには300円の価値があります。店は200円の費用で提供できるため、取引が成立すれば100円分の利益が社会全体に生まれます。

ところが、価格が350円になると、その客は購入を諦めます。

本来なら成立していた取引が消え、誰の利益にもならない100円分の損失が生じるのです。

経済学では、こうした社会全体の利益の損失を「死荷重(しかじゅう)」と呼びます。

カルテルによる値上げで消費者が余計に支払うお金は、企業の追加利益になることがあります。しかし、値上げによって成立しなくなった取引から生まれるはずだった利益は、企業にも消費者にも残らず、社会全体から失われてしまいます。

競争が弱まることによる長期的な影響

カルテルには、長期的な弊害もあります。

価格競争がある市場では、企業は少しでも安く商品を提供するために、仕入れや製造方法を改善しようとします。価格以外でも、品質やサービスを高めることで客を集めようとするでしょう。

しかし、競争相手と価格や販売量を取り決められるようになると、こうした改善への動機が弱まることがあります。

非効率な企業が競争圧力を受けずに存続しやすくなる場合もあり、長期的には産業全体の生産性や技術革新に悪影響を与える可能性があります。

公正取引委員会も、カルテルが価格を不当に引き上げ、非効率な企業を温存し、経済を停滞させることを規制の理由として説明しています。

企業の自由と競争の境界

企業が自由に値上げすることとの違い

企業には商品の価格を自由に決める権利があるのに、なぜ競争相手と相談して決めると問題になるのでしょうか。

例えば、3軒のコーヒー店がそれぞれ350円で販売していても、それだけでカルテルになるわけではありません。

コーヒー豆や人件費の上昇によって、各店が独自に同じ価格を設定することは考えられます。他店の値上げを参考に、自分の店も値上げする場合もあるでしょう。

独占禁止法上の「不当な取引制限」に該当するかどうかは、企業間で価格や数量などについて意思の連絡があり、互いの事業活動を拘束することで、一定の取引分野における競争を実質的に制限しているかが判断の基準になります。

各企業が自分の判断で価格を決めていれば、ある店が値上げしても、別の店は安く販売し続けるかもしれません。価格や品質で競争する余地が残ります。

企業同士の協力が認められる場合

競争には、企業の利益を減らしたり、経営を不安定にしたりする面もあります。

安売り競争が激しくなれば、従業員の待遇改善や設備投資に十分なお金を回せなくなる場合もあるでしょう。企業が適切な利益を確保することは、事業を続けるうえで必要です。

企業同士の協力にも、社会に利益をもたらすものがあります。

例えば、複数の企業が共同で新しい技術を研究開発すれば、開発費用やリスクを分担でき、単独では難しい研究を進めやすくなります。

公正取引委員会の共同研究開発に関する指針でも、こうした協力には技術革新を促進し、競争に良い影響をもたらす効果があると説明されています。

ただし、共同研究開発であっても、競争を実質的に制限する取り決めなどは問題になります。

企業が自らの判断で値上げすることも、共同で技術を開発することも、通常の経済活動として認められています。競争相手と協力する場合には、その取り決めが市場の競争にどのような影響を与えるかによって、法律上の評価が変わるのです。

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