ニュースを見ていると、ときどき不思議な感覚になる。「まだ戦争をやっているのか」と。
2026年9月1日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、航空会社や保険会社などに対してロシア領空の利用は危険だと警告し、「ロシアの領空は事実上閉鎖されつつある」と述べた。ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まったのは2022年2月24日で、すでに4年半あまりが過ぎている。
戦争が長くなれば、兵士だけでなく一般市民も傷つく。街やインフラは壊れ、避難生活は続き、国の財政にも大きな負担がかかる。それでも「もう十分だ」と多くの人が思っただけでは、戦争は終わらない。
戦争ごとに事情は異なる。それでも長引く背景を見ていくと、「まだ戦う理由がある」「まだ戦える」「安心してやめられない」という三つの条件が見えてくる。
まだ戦う理由がある
外から見れば、双方に被害が広がるなら早くやめたほうがいいように思える。戦っている当事者には、「今やめるより、もう少し戦ったほうが有利になる」と見えていることがある。
領土をめぐる戦争なら、一方は「さらに戦えば占領地域を広げられる」と考え、もう一方は「耐えれば奪われた土地を取り戻せる」と考えるかもしれない。相手が先に弱ると予想したり、外国からの支援が増えることに期待したりする場合もある。今ここで妥協すれば、「これまでの犠牲は何だったのか」と国内から反発を受ける可能性もある。
戦争を続けるか交渉に入るかを直接決めるのは、政府や軍、武装勢力の指導部だ。ただ、その判断には戦況だけでなく、国内世論、支援国の意向、経済的な負担なども影響する。市民の多くが戦争に疲れていても、意思決定する側が「まだ戦う必要がある」と考えていれば、戦闘は続く。
侵略した側と攻撃を受けた側では、立場も責任もまったく異なる。その違いを踏まえたうえで戦争の長期化を考えるなら、それぞれにとって何が「まだ戦う理由」として残っているのかを見る必要がある。
まだ戦える
戦争は意思だけでは続けられない。兵士、武器や弾薬、燃料、食料、資金などを確保し、戦場へ送り続ける必要がある。国外から武器や資金の支援を受ける場合もある。
戦争の長さには大きな差がある。アジア経済研究所がウプサラ紛争データプログラムのデータをもとにまとめたところでは、1946〜2024年に起きた内戦の約4割は1年以内に終わった一方、数十年間続いたものもある。長期化に関わる要因として、武装勢力が活動しやすい地理的条件、天然資源や密輸などから得られる資金、国外からの介入などが挙げられている。
これは政府と反政府勢力が国内で戦う内戦についてのデータで、国家間の戦争とは条件が異なる。それでも、戦争を続けるための人、金、武器がどこから供給されているのかという視点は、長期化を考える手がかりになる。
大きな被害が出ていても、人員や武器、資金、補給を確保できていれば、戦闘を続ける余力は残る。戦争がいつまで続けられるのかを見るうえでは、戦況だけでなく、こうした継戦能力も重要になる。
安心してやめられない
双方が「これ以上戦っても得るものが少ない」と考えるようになっても、和平には別の難しさがある。武器を置いたあと、自分たちの安全が守られるのかという問題だ。
停戦に応じて兵士を撤退させたあと、相手が再び攻撃してくるかもしれない。こちらが武器を置いても、相手が武装したままなら不利になる。和平を望んでいても相手を信用できなければ、戦闘をやめること自体が危険な選択に見えてしまう。
防衛研究所の戦争終結に関する研究でも、相手が約束を守ると信頼できない「コミットメント問題」が、和平を難しくする要因の一つとして論じられている。
停戦や和平では、「撃つのをやめる」だけでなく、その後の仕組みまで決める必要がある。軍をどこまで撤退させるのか、誰が停戦を監視するのか、領土や国境をどうするのか、捕虜をどう扱うのか、避難した人がどう戻るのか、復興を誰が担うのかといった問題が残る。
戦争を終わらせるには、ただ銃を置くだけでは足りない。銃を置いても大丈夫だと思える状態そのものをつくる必要がある。
ニュースを見ながら「いつまで戦争をやっているんだろう」と思っても、終わる日を予想するのは難しい。それでも、戦況の裏側で何が変わりつつあるのかを見ることはできる。
戦い続けることで得られるものが少なくなったのか。兵士や武器、資金を維持できるのか。停戦後の安全について、当事者が受け入れられる仕組みをつくれるのか。そうしたところまで見ると、「どちらが押しているか」「どこを攻撃したか」だけを追っていたニュースが、少し違って見えてくる。
参考資料
