防災グッズを調べると、水、非常食、懐中電灯、ラジオ、モバイルバッテリー、乾電池、救急セット、軍手、ホイッスル……と、長いチェックリストが出てくる。
もちろん、手元に置いておきたい物はほかにもたくさんある。家族構成や住んでいる場所、想定する災害によって必要な物も変わる。
ただ、あれも必要、これも必要と言われるほど、「結局、何から備えればいいのか」が分からなくなってしまう。
そこでこの記事では、すべての防災用品を網羅するのではなく、自宅が安全で在宅避難できる場合に、まず何を確保しておきたいかという最低限の視点から考えてみる。
結論からいえば、最初に確認したいのは水・トイレ・食料だ。ただし、この3つは同じ理由、同じ緊急度で必要なわけではない。
水は生命を維持するために欠かせない。トイレは必要な水分を我慢せず、衛生的に生活するために重要になる。食料は水ほど短期間では切迫しないものの、災害後の体力と生活を維持するために必要だ。
防災で本当に考えたいのは、専用品を何種類買うかではなく、災害で失われる生活の機能を何で補うかである。
まず確保したいものを優先度で整理する
一般的な家庭での優先順位を整理すると、次のようになる。
| 優先度 | まず確保したいもの | 必要な理由 | 家にある物で補いやすいか |
|---|---|---|---|
| 最優先 | 飲める水 | 水分不足は短期間でも健康に影響し、重度の脱水は生命にも関わる | 水そのものは代替しにくいが、防災専用水でなくてよい |
| 最優先 | トイレを流せないときの処理手段 | 排泄を我慢すると水分摂取まで控えやすく、衛生状態も悪化する | 何も準備していないと補いにくい |
| 次に確保 | 数日分の食料 | 体力を保ち、物流停止中の生活を支える | 普段の保存食品で備えやすい |
| 家庭によって最優先 | 常用薬・医療用品など | 本人にとって代えが利かない | 代替できない場合が多い |
| 次に確認 | 明かり・スマホの充電 | 停電時の生活や情報収集に必要 | 手持ちのライトやモバイルバッテリーなどで対応できる |
| 条件によって重要 | カセットコンロ、ラジオ、軍手など | 食事、情報収集、安全確保を助ける | 住環境や災害リスクによって変わる |
「水・トイレ・食料を優先する」といっても、この3つの商品を買いそろえるという意味ではない。
水や食料は、普段使っている物を少し多めに持てばよい。むしろ特別に用意する必要性が高いのは、普段の生活には登場しない「トイレが流せないときの処理手段」のほうだ。
水は最優先(防災専用品でなくてもいい)
食料も重要だが、飲料水の不足は短期間でも健康に影響しやすい。暑さや発熱、下痢、持病などが重なれば、脱水のリスクはさらに高くなる。
だからこそ、在宅避難に備えるなら、まず飲める水を確保しておきたい。
農林水産省では、家庭備蓄の例として飲料水を1人1日おおよそ3Lとしている。3日分なら1人9L、4人家族なら36Lになる計算だ。
ただし、「防災用の長期保存水」をわざわざ大量に買う必要はない。普段飲んでいるペットボトルを多めに置き、飲んだ分を補充する方法でも十分に備蓄になる。
重要なのは、断水したときに飲める水が残っていることであり、商品の種類ではない。
なお、1人1日約3Lという目安は、主に飲料や調理に使う水の量だ。手洗いや洗面などに使う生活用水は別に必要になるため、これだけで断水中の生活すべてをまかなえるわけではない点は覚えておきたい。
トイレは水を我慢しないために欠かせない
携帯トイレを見ると、「家にトイレがあるのに、わざわざこんな物まで買う必要があるのか」と思うかもしれない。
しかし災害時に起きるのは、必ずしも「便器がなくなる」という問題ではない。便器はあるのに、流せないという状況だ。
大きな地震などでは、断水だけでなく、建物の排水管や下水道などが損傷して水洗トイレを使えなくなる場合がある。水が出ていても、排水設備が無事とは限らない。
自宅は無事で、水も食料もある。しかしトイレだけ流せない――そんな場面を想像してみてほしい。
家族4人がそのまま使えば、便器には排泄物やトイレットペーパーがたまっていく。臭いや衛生面の問題が生じ、それが翌日も続くかもしれない。仮設トイレがすぐ近くに設置される保証もない。
そうなれば、「なるべくトイレに行きたくない」と考えるのは自然なことだ。水を飲む量を減らす。食事も控える。排泄を我慢する。
内閣府の防災情報では、災害時にトイレの使用をためらって水分や食事を控えることが、栄養状態の悪化や脱水症状などの健康障害につながるおそれがあると指摘されている。
つまりトイレは、水のように直接生命を維持するものではない。それでも、必要な水をきちんと飲み、衛生的に生活するための基盤として重要になる。
しかも、使用回数は意外と多い。成人の平均的な使用回数を1人1日5回とすると、1週間で35回。4人家族なら3日で60回、1週間なら140回にのぼる。
ここでいう携帯トイレとは、便器などに処理袋を取り付け、凝固剤や吸収材で排泄物を処理するタイプを指す。水や食料は普段の生活用品を多めに持つことで対応しやすいが、「水洗トイレを使わずに排泄物を処理する道具」は、意識して準備しなければ家庭にないことが多い。
携帯トイレは、一見すると必要性を感じにくいのに、いざというとき代わりを用意しにくい防災用品だといえる。
なお、大きな地震の直後は、排水管や下水道が損傷している場合がある。水が出るからといって自己判断で水洗トイレを流さず、管理会社や自治体、下水道事業者などからの案内を確認したい。
食料は必要だが水ほど急を要さない
災害時には食料も必要だ。ただ、水と食料では、不足したときの影響の現れ方が違う。
食料を十分に取れなければ、空腹だけでなく体力や集中力も低下する。避難や片付け、復旧作業をするにもエネルギーがいるため、数日分の備蓄は必要になる。
一方、水分不足はより短期間で健康に影響しやすいため、「水と食料のどちらを先に確保するか」という場面では水を優先して考えたい。
だからといって、「数日なら食べなくても大丈夫」と食料を軽視してよいわけではない。必要な食事量や影響は、年齢や健康状態によっても変わる。乳幼児、高齢者、妊娠中の人、持病がある人、食事に合わせて薬を服用する人などでは、食料がより優先度の高い備えになる。
そして、食料が必要だからといって、非常食を大量に買う必要はない。
農林水産省は最低3日分から1週間分程度の食品備蓄を勧めているが、普段食べる食品を少し多めに買い、消費した分を買い足すローリングストックも紹介している。そのまま食べられる缶詰、レトルト食品、栄養補助食品、シリアル、菓子などが家にあれば、それも立派な備蓄になる。
ただし、注意したいことがある。「食品が家にある」ことと「災害時に食べられる」ことは、必ずしも同じではない。
カップ麺や乾麺には水と熱源がいる。レトルト食品も、商品によっては加熱が前提になる。停電し、断水し、ガスも止まった状態で実際に食べられるかまで確認しておきたい。
カセットコンロがあれば食べられる物は大きく増えるため、在宅避難が数日以上に及ぶことを考えるなら、優先度も上がってくる。
懐中電灯やモバイルバッテリーは「何で補うか」で考える
水・トイレ・食料を確認したら、次は電気が止まった状況を考える。
停電すれば明かりは必要だが、懐中電灯という商品そのものが必須とは限らない。短時間ならスマホのライトでも対応できるし、すでにLEDランタンやライトを持っている家庭なら新しく買う必要はない。
とはいえ、スマホだけで何時間も照らすとバッテリーを消費してしまうため、独立した明かりが一つあると安心ではある。「防災用懐中電灯を買うか」ではなく、停電したら何で照らすかを確認すればよい。
スマホの充電手段も重要だ。災害時のスマホは、家族との連絡だけでなく、避難情報、地図、天気、ニュースなどを確認する道具になる。
モバイルバッテリーは手軽な方法だが、すでにポータブル電源があるならそれを使えばよい。車から充電できる家庭もあるが、燃料や駐車場所、安全性に左右されるため、あくまで補助手段として考えておきたい。
ラジオも同様に、スマホ以外の情報手段が必要かどうかで優先度が変わる。
防災用品の名前から考えるのではなく、停電したら何ができなくなり、それを何で補うのかという順番で考えると、不要な買い物を増やさずに済む。
防災グッズを買う前にまず家の中を確認する
長い防災チェックリストを一つずつ埋める前に、まず次の三つを確認してみよう。
- 断水しても、飲める水が数日分あるか
- トイレを流せなくても、排泄物を処理できるか
- 電気やガスが止まっても、数日食べられる物があるか
これが、在宅避難を考えるときの土台になる。
そのうえで、常用薬、医療用品、乳幼児用のミルクやおむつ、介助用品など、その家庭で代えが利かない物が必要量あるかを確認する。家庭によっては、これらが水・トイレ・食料と同じか、それ以上に優先される。
さらに、停電時の明かり、スマホの電源、熱源、情報手段を順に確認していけばよい。
もちろん、ここに挙げなかった物が不要というわけではない。避難するときの持ち出し品は別に必要になるし、地域の災害リスクや家族構成によって追加したい物はいくつもある。
この記事で整理したかったのは、「あれもこれも必要」と考える前に、最低限どこから備えるかという順番だ。
水道が止まったらどうするか。トイレが流せなくなったらどうするか。物流や電気、ガスが止まったら何を食べるか。
そこから考えれば、自分の家に本当に足りない防災グッズが見えてくる。
参考資料
