やる気が出ないとき、私たちは「やる気が出たら始めよう」と考えがちだ。けれど、やる気と行動の関係は一方向ではない。
やる気があるから行動できるだけではなく、行動して前に進むから、やる気が出てくることもある。
だから、やる気が出ないときに最初に考えたいのは、気分を変える方法ではなく「今の自分でも終わらせられるくらいまで作業を小さくできないか」ということだ。
やる気が出ないときは「成功できる大きさ」まで小さくする
「試験に合格する」「10キロ痩せる」「大きな企画を完成させる」といった目標は、最終的な目的としては必要だ。ただ、今日の行動を決める目標としては遠すぎることがある。ゴールが大きいほど、何から手をつければいいのか分からず、始めること自体が重くなりやすい。
そこで、まずは「これならできそう」と思えるところまで小さくする。資格の勉強なら1ページ読む。英語なら単語を5個覚える。企画書なら最初に見出しを3つ決める。部屋を片づけるなら机の上だけ整理する。運動なら10分だけ歩く。
時間は必ずしも5分や10分である必要はない。大切なのは、何をすればいいかが明確で、今日中に終えられそうで、終わったときに「できた」と感じられる大きさになっていることだ。
この「自分ならできそう」という感覚は、心理学では自己効力感と呼ばれる。
厚生労働省 e-ヘルスネットの「セルフ・エフィカシーを高めるポイント」では、セルフ・エフィカシー(自己効力感)を、ある行動をうまく行うことができるという自信と説明している。自己効力感が高いほど、その行動を起こしやすく、失敗や困難があっても諦めにくいとされる。また、自己効力感を高める代表的な方法の一つとして、自分自身でうまくできたという「成功経験」が挙げられている。
つまり、最初から強いやる気や自信を用意する必要はない。まず小さく行動して「できた」をつくる。その経験が「次もできそう」という感覚につながり、次の行動を少し楽にしていく。
ただし疲れすぎているなら、動くより休む
ここまでの方法は「やろうと思えばできるけれど、なかなか始められない」という状態には使いやすい。一方で、心身の疲労が強く蓄積しているときまで、無理に「まず5分だけやろう」と考える必要はない。
十分に休んでも疲れが抜けない。仕事から離れても気持ちが戻らない。普段なら問題なくできることまでひどく負担に感じる。そうした状態なら、目標を細かくする以前に休養が必要な場合もある。
やる気が出ない理由をすべて「まだ行動していないから」と考えると、本当に休むべきときまで自分を動かそうとしてしまう。
動き出せないのか、それとも疲れすぎているのか。
ここは分けて考えたほうがいい。
大きな成功より「前に進んでいる感覚」がやる気につながる
小さな行動が意味を持つのは、単に始めやすくなるからだけではない。実際に少し進むことで「前に進んでいる」という感覚が生まれるからだ。
ハーバード・ビジネス・スクールのテレサ・アマビールとスティーブン・クレイマーは、知識労働者238人から集めた約1万2000件の日誌などを分析し、仕事中の感情やモチベーションに強く関係していたものとして「進捗」を挙げた。この考え方は「進捗原則(Progress Principle)」として知られている。
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューの「進捗の法則 知識労働者の生産性を高める」でも、有意義な仕事が着実に進んでいると感じることが、仕事への意欲や生産性を支える重要な要因として紹介されている。
ここでいう進捗は、大きな成功でなくてもいい。企画そのものは完成していなくても必要なデータが見つかった。動かなかったプログラムの原因が一つ分かった。書けなかった文章の最初の段落ができた。最終的な成果から見れば小さな変化でも、本人にとっては「昨日より前に進んだ」という明確な変化になる。
だからToDoリストにチェックを入れたり、勉強したページ数を残したりすることにも意味がある。単なる作業管理ではなく、進捗を見えるようにすることで、自分が前に進んでいることに気づきやすくなるからだ。
最終ゴールだけを見ていると、達成するまでの大半は「まだできていない時間」になる。途中の進捗も見るようにすれば、同じ時間を「ここまでできた時間」と捉えられる。この小さな違いが、次の行動を続けやすくする。
小さな成功を重ねると「得意」に変わっていく
小さな進捗を積み重ねる効果は、今日のやる気だけにとどまらない。
今日できなかったことが明日できるようになり、それを繰り返していけばスキルそのものが上がっていく。最初は「これならできそう」という自己効力感だったものが、経験を重ねるうちに「自分はこれをうまくできる」という有能感へ変わっていく。
流れを単純化すると、次のようになる。
小さく行動する → 進捗が生まれる → できた経験が増える → 続けやすくなる → 上達する → 得意になる
つまり、短期的な「やる気を出す方法」と、中長期的な「自分の得意なことができるまで」は別々の話ではない。日々の小さな成功が積み重なることで、やがて自分自身の能力の感じ方まで変わっていく。
そして、この先にもう一つ興味深い変化がある。
得意になったことで、その仕事自体を好きになることがある。
「好きだから得意」だけでなく「得意だから好き」もある
仕事については「好きなことを仕事にしよう」とよく言われる。確かに好きなことには時間を使いやすく、長く取り組めば上達もしやすい。その意味では「好きだから続けられ、得意になる」という流れは自然だ。
ただし、逆方向もある。
最初は特に好きでもなかった仕事を任され、何度も繰り返しているうちにコツが分かる。以前より早くできるようになり、成果が出て、周囲から頼られるようになる。すると、その仕事が以前より面白く感じられることがある。
たとえば最初は面倒だったExcelの作業でも、関数やマクロを覚えて短時間で処理できるようになれば「どうすればもっと効率化できるだろう」と工夫する余裕が生まれる。営業でも、経験を重ねて相手の反応が読めるようになり、結果が出始めれば、自分なりの話し方や提案方法を試せるようになる。
ここで重要なのは、単に「上手にできるようになる」ことだけではない。成果が出て信頼されるようになると、仕事を任される範囲が広がり、自分で判断したり工夫したりできる余地も増えることがある。
自己決定理論では、人が内側から「やりたい」と感じる動機づけに関わる要素として、有能感や自律性などが重視されている。公益社団法人国際経済労働研究所の「有能性と自律性(あるいは自己決定性)は、内発的動機づけを促進するか?」でも、「仕事がよくできる」という有能感や「仕事に創意工夫が活かせる」という自律感が、仕事そのものから得られるやりがいと関係すると説明している。
つまり、
得意になる → 自分で工夫できるようになる → 面白くなる → もっと続ける → さらに得意になる
という循環もあり得る。
「好きだから得意」と「得意だから好き」は、どちらか一方ではない。互いに影響しながら強くなっていく。
これは仕事選びを考えるうえでも重要だ。最初から「心から好きな仕事」を見つけなければならないわけではない。しばらく取り組み、少しずつできるようになってから初めて、その仕事の面白さが見えてくる場合もある。
もちろん、得意になればどんな仕事でも好きになるわけではない。自分で決められることがほとんどない、仕事に意味を感じられない、人間関係や労働環境に大きな問題がある。そうした状況では「自分はこの仕事が得意だ」という感覚だけでやる気を保つのは難しい。
やる気は待つより小さくつくる
やる気が出ないと、私たちは「どうすれば気分を変えられるか」と考えがちだ。目標を思い出したり、成功した未来を想像したりすることで動けることもある。ただ、いつも気持ちが先に変わるとは限らない。
むしろ、行動して少し進み「できた」と感じることで、あとから気持ちがついてくることがある。さらに続ければ上達し、得意になり、それまで好きではなかったものを面白いと思うようになることさえある。
だから今日やる気が出ないなら、大きな目標を見続けなくていい。
今から一つだけ終わらせられることは何か。
まずそこまで小さくして、実際に終わらせてみる。
やる気がある人だけが行動できるのではない。行動して前に進んだ人が、あとからやる気のある人になっていくこともある。
参考資料
