会社に入ると、主任、係長、課長、部長……と、いくつもの役職があります。
なんとなく上下関係は分かりますが、考えてみると不思議です。なぜ、こんなに細かな階段をつくる必要があるのでしょうか。
理由は、単に人を偉さの順に並べるためではありません。
大きな組織の仕事と責任を分けるため。そして日本企業では、そこに人を育て、評価し、昇進させる仕組みも重なってきたからです。
さらに、役職には「評価された」「次の段階に進んだ」と本人が感じる心理的な意味もあります。
役職は、会社を動かす仕組みであると同時に、人を動かす仕組みでもあるのです。
役職は「誰がどこまで決めるか」を分ける仕組み
10人くらいの会社なら、社長が社員全員と直接話し、仕事を割り振ることもできるでしょう。
しかし100人、1,000人となればそうはいきません。
そこで組織をチーム、課、部などに分け、それぞれに責任者を置きます。
企業によって違いますが、一般には係長が現場に近い単位をまとめ、課長が課などの部署を運営し、部長がさらに大きな部門を統括する、といった形です。
こうすれば、すべてを社長が判断する必要はありません。
現場で決められることは現場で決め、より大きな判断だけを上へ送ることができます。
つまり役職とは、
「どちらが偉いか」を示すものというより、「誰がどこまで判断し、責任を持つか」を整理する仕組み
と考えたほうが実態に近いでしょう。
ただし、主任や係長、課長の意味に全国共通のルールがあるわけではありません。
同じ「課長」でも、会社によって部下の人数も権限もかなり違います。
日本では「キャリアの階段」にもなった
日本で細かな役職が発達した理由を考えるとき、長期雇用や内部昇進の仕組みも無視できません。
日本の大企業では長い間、新卒などで採用した人を社内で育て、配置転換やOJTをしながら、内部から管理職へ登用する仕組みが発達してきました。労働政策研究・研修機構(JILPT)も、日本の雇用システムの特徴として長期雇用、内部育成、内部昇進を挙げています。
その中では、たとえば、
一般社員 → 主任 → 係長 → 課長 → 部長
と少しずつ責任を大きくしていく仕組みは都合がよかったのでしょう。
会社は、いきなり大きな部署を任せるのではなく、段階的に経験を積ませられます。
社員から見ても「次は主任」「その次は係長」と、社内での現在地が分かります。
もちろんこれは典型例にすぎません。主任を置かない会社もあれば、主任と係長の位置づけが違う会社もあります。
それでも日本では、役職が単なるポストではなく、会社員としての成長を示す「目盛り」のような役割まで持つようになったと考えると、細かな肩書きが多い理由が見えてきます。
昇進には「認められた」という意味もある
もう一つ面白いのが、心理的な意味です。
課長になると給料が上がる。権限が増える。任される仕事も大きくなる。
それだけなら、役職は単なる待遇の仕組みです。
しかし実際には、
「課長に選ばれた」
ということ自体が、「これまでの仕事を会社から評価された」というメッセージにもなります。
昇進すると急に自分という人間の価値が高くなるわけではありません。「自己肯定感が上がる」とまで一般化するのも難しいでしょう。
それでも、
- 評価されたという実感
- 仕事をやり遂げた達成感
- 成長している感覚
- 次の段階を目指す動機
につながることは十分考えられます。
だから細かな役職の階段には、人に「次」を意識させる仕掛けという面もあります。
ゲームでレベルが一つ上がると、数字が変わっただけなのに少しうれしい。それに近いところがあるのかもしれません。
ただ、誰もが上へ行きたいわけではありません。
責任や部下が増えるなら昇進したくない人もいますし、管理職より専門職として能力を伸ばしたい人もいます。
役職が「ご褒美」になる人もいれば、「負担」になる人もいるわけです。
外資系は「役職がない」のではない
ここで外資系企業を見ると、少し違った景色が見えてきます。
外資系にも、
Manager
Senior Manager
Director
Vice President
などの肩書きがあります。
つまり、外資系だから役職が少ない、上下関係がない、というわけではありません。
違いが出やすいのは、肩書きとは別に「その仕事がどのくらい大きいか」をグレードで表す考え方です。
ここで区別しておきたいのが、役職と等級です。
| 言葉 | 主に表すもの |
|---|---|
| 役職 | 組織の中で担うポジション |
| 等級・グレード | 職務の大きさや能力、処遇上の位置 |
| 管理職 | 人や組織を管理する社内上の区分 |
日本の伝統的な仕組みを単純化すれば、「人が社内の階段を上がっていく」イメージです。
一方、職務を基準にした制度では、先に「この仕事はどのくらい大きな責任を持つのか」を決め、そこにグレードや報酬を対応させます。
いわば、人ではなく仕事そのものに階段があるわけです。
日本企業でも、この考え方を取り入れる例が出ています。
たとえばシスメックスは、役割・職務内容を基準に職務等級を決める制度を導入しています。同じ「部長」という対外的な肩書きでも、担当する組織の規模などによってジョブグレードが異なる仕組みです。
肩書きが同じなら、会社の中での価値も同じ。
必ずしも、そうではなくなっているのです。
「上へ行くこと=成長」ではなくなっていく?
役職について考えていくと、最後は少し違う問いに行き着きます。
そもそも、会社員の成長は「上の役職へ行くこと」だけなのでしょうか。
かつてのように一つの会社で長く働くことを前提にすれば、
主任 → 係長 → 課長 → 部長
という階段は分かりやすい目標になります。
けれども、専門性を磨きたい人、部下を持ちたくない人、仕事より生活を優先したい人にとって、上へ行くことが唯一の成功とは限りません。
そのため、これから変わっていくのは「課長」や「部長」という言葉そのものよりも、
上へ昇ることだけを会社員の成長と考える感覚
なのかもしれません。
主任、係長、課長、部長。
何気なく名刺に書かれている肩書きですが、その裏には、仕事を分担する仕組み、人を育てる仕組み、そして人に「評価された」と感じさせる仕組みが重なっています。
そう考えると、役職は単なる偉さの表示ではなく、その会社が「人をどう動かし、どう成長させたいのか」を映すものにも見えてきます。
なお、「課長」「部長」などの社内での役職と、労働基準法上の「管理監督者」は別の概念です。管理監督者に当たるかどうかは、肩書きだけでなく、実際の権限や待遇、勤務態様などから判断されます。
参考文献
- 労働政策研究・研修機構「雇用システムの歴史的変遷について」
https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/028_180329.html - 厚生労働省「令和5年版 労働経済の分析―ジョブ型人事制度導入の取組について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/23/2-3.html
